研究概要Research

『木造住宅制振構造標準化を可能にした「DIT制震筋かい金物」の開発』

この開発研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のA-STEP ステージⅡ シーズ育成タイプの研究開発助成により、商品化にこぎつけることができました。2017年の10月から全国に向けて販売を開始しています。

現在は、高性能化及びコスト低減を目指し、改良開発に取り組んでいます(特許出願済み・近日公開)。

『CLTによる在来軸組フラットスラブ工法の開発および設計法の検討』

  1. 開発研究の目的

    図1 「在来軸組CLTフラットスラブ構法」

    図2 在来軸組構法(上)と「在来軸組CLTフラットスラブ構法」(下)の違い

     日本の小規模戸建住宅のほとんどは木造であり、そのうちの75%(およそ40万戸/年)は在来軸組構法である。在来軸組構法では、1階と2階の間取りを考慮しながら2階床組の横架材の配置を考える作業が必要であるが、概して、施主の求める間取りと構造安定性とを両立させることは難しく、どちらかが犠牲になることは現状ではやむを得ないことと考えられている。このような問題は、狭い敷地に建設せざるを得ない都市型木造住宅で顕著であり、このことを解決するためには、1階と2階の間取りを独立して設計しても(間取りを設定しても)、建物の構造安定性に影響を及ぼさないような構法の開発が求められている。一方、CLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)は、伐期を迎えた多量のスギやヒノキを有効に活用できる可能性があり、CLTのJAS規格※1の制定、CLTパネル工法※2の告示※3の整備も進められてきたが、CLTの利用はまだ限定的であり、積極的な林産資源の活用に結びついていない現状もある。
     上記のような状況に鑑みて、申請者らは、CLTの有効活用と在来軸組構法の木造住宅の構造の安定を両立する、図1のような「在来軸組CLTフラットスラブ構法」を提案してきた。本研究の目的は、「在来軸組CLTフラットスラブ構法」を実現するための設計用データを採取し、設計法を提案することである。本構法は、図2のように、在来軸組構法の床や屋根を剛なCLT板に置き換えるものであり、特殊な構法ではなく、在来軸組構法の枠内に納まるものと考えられる。
     CLTは、在来の床組に比べると、面内せん断剛性が30倍以上であり、完全な剛床が実現できることから、1階と2階を独立した構造と考えることができるようになり、各階の間取りを自由に設定できる。また、床や屋根が完全に剛となることで、広いバルコニーが無理なく実現できるほか、部材数の多い床組を省略できることで、工期は25%程度短縮できると考えられる。さらに、CLTは既存の床組に比べて重量が大きいので、床の遮音性能は25%程度向上する。現状では外国産材が90%以上である梁材をスギやヒノキなどの国産材に置き換えることができ、木造住宅の国産材使用率を向上させることにもつながる。

    1. :直交集成板の日本農林規格、平成25年農林水産省告示第3079号
    2. :CLTパネル工法:CLTのみで壁や床を構成する建物の建て方
    3. :CLTパネル工法を用いた建築物の構造部分の構造方法に関する安全上必要な技術的基準を定める等の件、平成28年国土交通省告示第611号
  2. 研究計画の概要

     本研究では、「在来軸組CLTフラットスラブ構法」を実現するための各部の構造データを実験によって採取し、在来軸組構法の規定に追加して運用できる設計法(仕様規定)を提案する。また、この設計法を基に設計した建物の構造安全性を静的および動的解析で検証する。

    • ① モデル住宅の設定
       モデル住宅のプラニングを行い、「在来軸組CLTフラットスラブ構法」を採用した場合の施工方法や外装材、開口部まわり、防水、断熱、給排水などの観点から問題点を抽出し、その解決策を検討する。木造では、非構造部分の納まりによっては、構造性能に影響を及ぼすこともある。また、木材の腐朽や蟻害を防ぐための防湿、防水に関わる納まりもよく検討しておくことが構造性能を担保するうえで重要である。
    • ② CLT床板と接合部の構造実験および設計用の剛性と許容応力度の設定  
      • (a) CLT床板の面外曲げ試験
         CLT床板は、長さ方向に1方向の曲げに対する検討はなされているが、本提案構法では、CLT床板を比較的小径の柱で支持するため、図3のように、2方向の曲げが生じることになる。従って、CLT板の2方向曲げに対する設計用の剛性と強度が必要となるため、MX60 5層5プライ(厚さ150mm)、2.5m×1.8m程度のCLT床板の4隅を柱で支持して面外曲げ試験を実施する。
      • 図3 1方向曲げと2方向曲げ

        図4 2階CLT床板の配置例

        図5 接合部引張試験とせん断試験

        図6 長尺木ねじ

         
      • (b) CLT床板どうしの接合部の引張試験およびせん断試験
         CLT床板は、図4のような配置が考えられ、CLT床板どうしの接合部での応力伝達を確認する必要がある。CLT床板の接合部の引張試験や面内せん断試験(図5)を実施して、接合部の剛性と強度を把握し、設計における許容値を設定する。接合部は、ハーフラップドジョイントとし、図6に示すRothoblaas社(イタリア)の長尺木ねじを斜め打ちで使用する。この接合方法は、日本では使用実績はないが、欧州では一般的である。
    • ③ 設計法(仕様規定)の提案
       ここでは、本提案構法に対する各部の設計法(仕様規定)を検討する。設計法(仕様規定)は、既存の在来軸組構法の規定に加えて運用するものとする。具体的には、剛床とみなせるようにするため、間取りを考慮した柱の配置とCLT床板の分割方法、床板どうしの接合部の仕様、耐力壁の配置ルールが必要と考えている。また、長期荷重によるたわみを許容値以内とするためのスパン制限も必要である。なお、在来軸組構法に適用される壁量計算は、基本的にはそのまま本構法にも適用するが、CLTによる床組の重量を考慮した必要壁量も提案する。
    • ④ モデル住宅での構造安定性の検証
       モデル住宅を対象に、前項で提案した設計法に基づき、試設計を行う。そして、この建物を立体モデル化して、鉛直荷重作用時および鉛直荷重+水平荷重作用時の静的な応力解析と地震応答解析を行い、CLT板および接合部に作用する応力を求め、各部の応力が設定した許容値以内であることを確認する。もしここで、各部の応力が許容値を超える結果が得られた場合は、前項に戻り、設計法(仕様規定)を見直す。
       また、同じ間取りでCLT板を用いない既往の在来軸組構法の住宅の解析モデルも作成して地震応答解析を行い、「在来軸組CLTフラットスラブ構法」の場合と地震応答の違いを把握する。
       2016年の熊本地震では、被害の大きかった建物で柱や壁の直下率が低かったことが報告されている。地震応答解析の結果を比較することで、「在来軸組CLTフラットスラブ構法」では、(実際の直下率に関係なく)直下率が高い建物と同等の耐震性能を有することが明らかになると考えている。既往の在来軸組構法では、柱や壁の直下率を改善しようとする場合には、必ず1階や2階の間取りに影響を及ぼすが、本構法では、間取りに影響を及ぼさず、直下率が高い建物の耐震性能を実現できる。

木造住宅の次世代耐震設計法の開発

  1. 研究の背景・今までの研究経緯

     小規模な木造住宅の耐震設計の考え方は、現状では、“建物が大地震に遭遇することがあったとしても、倒壊しなければよい”、というものである。静的な設計用地震力に対して、静的な実験に基づいて評価される建物の耐力が上回っていれば、その建物には耐震性があるとされるが、現状の設計法では応答変位が計算できないため、地震に遭遇した場合の建物の損傷は予測できない。近年の大地震が頻発している状況をみると、これでは不十分であり、レベル3相当の巨大地震や、これに続く余震に対しても倒壊せず、継続して使用できることが必要とされている。このような要求性能を満たすためには、“建物が地震に遭遇したとき、構造部材や仕上材がどのぐらいの損傷を受けて、残余耐震性能がどの程度であり、次の地震に対しても安心して使用できるかどうかを正確に評価できる技術”が必要とされている。さらに、耐震補強を行った場合に、どの程度まで耐震性能が回復したかについても評価できる必要がある。
     具体的には、①動的な荷重に対する建物(耐力壁)の耐震性能の再評価、②設計用の地震動が決まった時に、建物の最大応答変位および損傷の予測法の確立、③地震後の建物(耐力壁)の耐力の評価法の開発、が必要である。(小規模な木造住宅では、建物の耐震性能の大部分は耐力壁の耐震性能に依存する。)
     これまで、①に対しては、神戸大学の小型振動台を使用して、いくつかの耐力壁の動的耐震性能を評価し、静的な荷重に対する耐震性能とは異なることを把握したが、一般的に用いられる耐力壁の種類や仕様は多く、未だ十分ではない(図1~図3)。また、②に対しては、小規模な木造住宅の設計を行うのは、構造力学や振動学の知識が十分ではない小規模な工務店が多いことを考慮して、簡易な地震応答予測ソフトの開発を行ってきた(図4)。③に対しては、これからである。

  2. 図1振動台実験の状況

    図2 荷重-変位関係

    図3 筋かいの破壊性状

    図4 簡易応答予測ソフト

  3. 研究の目的・目標

     本課題の目的は、複数回の地震を経験した小規模な木造住宅の耐震性能と損傷状況の評価を可能にすることである。つまり、「持続可能な木造住宅をつくるための未来の耐震設計法」を構築することである。

    • a. 小型振動台を用いた木造耐力壁の動的耐震性能の評価
       木造住宅の耐力壁(筋かい、合板など)の動的耐震性能を把握するため、振動台実験を行う。これまでは、油圧ジャッキを用いた静的な加力実験によって、静的な耐震性能が評価されてきたが、近年は、小型の振動台が多くの研究機関に普及しており、ここでは、適切なものを選定して借用する。また、ここでの実験の手順を試験法としてとりまとめておくことで、将来、新しい耐力壁が開発されたときには、同じ条件下で動的耐震性能の評価が可能になる。ここでの実験方法が将来的に試験法として一般化する可能性もある。
    • b. 地震時の建物の応答変位および損傷の予測法の開発
       振動台実験の結果を用いて、様々な床面積や耐力壁を持つ2階建木造住宅の地震応答解析を実施し、最大応答変位のデータベースを作成する。そして、これまでに開発した簡易な地震応答予測ソフトのデータベースを更新する。このソフトは、建物の面積や、耐力壁の種類や数を入力すると、地震応答解析によって求めた最大応答変位のデータベースをもとに、AIが最大応答変位と、変位に応じた損傷状況を表示するものである。
    • c. 地震を経験した建物の耐震性能の評価法の開発
       振動台実験の結果をもとに、損傷度に応じて、耐力壁の耐震性能を算出する手法を開発する。具体的には、耐力壁が経験した最大応答変位に応じた耐震性能の低減率を算出し、前項b.の簡易な地震応答解析ソフトに組み込む。これにより、前項b.のソフトで繰り返し解析を行うことで、複数の地震によって、建物の最大応答変位や損傷が変化していく状況が把握できる。